未来の価値 第36話


「無事、テロリストグループ・サムライの血の制圧も終わったようだね」

クロヴィスは満面の笑みで、目の前に座る異母弟に話しかけた。
サムライの血の潜伏場所は早い段階で見つけていたが、兵力を蓄えている上に砦と化したそのアジトに突入を試みるも失敗。籠城の構えで守りを固めているその場所に進行できず、ブリタニア軍は3日者間立ち往生することとなった。そこでクロヴィスは総督補佐のルルーシュに助言を求めた。ルルーシュは指揮権を望み、クロヴィスは了承。そしてその日のうちに、更に言うならばルルーシュがその場の指揮権を得た2時間後には全てが終わっていた。
無血開城とはいかなかったが、それでも戦闘の規模の割に被害は少なく、自爆覚悟で特攻してきたテロリストが2名命を落としただけで済んだ。
残りの者たちは全員投降し、今は檻の中だ。

「ええ、彼らはが持っていた兵器は旧時代の遺物。KMFで攻め込めば、負ける戦ではありません。兄上が全軍突入を命じれば、とっくに決着がついていたでしょう。俺が指揮を取ったことで違いがあるとすれば、被害が大きいか、小さいかだけです」
「たしかにそうだが、強硬策を取ればこちらの兵に甚大な被害が出ただろう。それを、これほど少ない被害で終わらせたとは、さすがルルーシュだ。・・・これで、あとの悩みの種は日本解放戦線だけだね」
「・・・そうですね。潜伏先は既に割れていますが」
「あの山そのものが要塞のような物だからね、あの場所にいるだろうとは前々から解っていたが、手は出せなかったのだよ」
「でしょうね」
「でも、落とすのだろう、ルルーシュ」
「あの者たちは、侍の血以上に過去に囚われている。こちらの交渉に応じることはないでしょう。彼らこそ、旧世代の遺物。この国から争いの火種を消すためには、残してはいけない存在です」

冷たく放たれた言葉に、クロヴィスは無意識に固唾をのんだ。
自分の道を阻むものに対して冷酷な態度を取ってはいるが、結果を見れば敵をも守い、不穏分子を生かしている矛盾にルルーシュは気づいているのだろうか。
あまりにも危うい弟の姿に、不安ばかりが募っていく。

「・・・それでだね、ルルーシュ」
「お断りします」

意を決して口を開いたクロヴィスに、ルルーシュは否定の言葉を向けた。

「私はまだ何も・・・」
「専任騎士の話ではないのですか?」

じろりと睨みつけると、クロヴィスは驚いたような顔をした。

「良く解ったね、流石ルルーシュだ」
「解りますよ。先日コーネリア姉上から大量の資料が送られてきたとユフィが文句を言っていました。何でもその話のために近々ダールトンが来るとか」

ユーフェミアに送られてきたのはエリート軍人の資料だった。大半がグラストンナイツではあったが、ルルーシュが見ても成程、と頷く人物が名を連ねていた。
河口湖でのテロ騒動に巻き込まれ、その後も勝手に出歩きSPを振り回している事は当然コーネリアの耳にも入っている。だからこそ、自分が信頼できる人物を騎士とし、守らせるだけではなく、ユーフェミアに主としての責任を自覚させる魂胆だろう。
コーネリアはルルーシュにも資料を送ってきたが、こちらは開封すらしていない。
ルルーシュの方がしっかりしているからと、コーネリアはユーフェミアほど気にかけてはいないが、それでもテロせん滅作戦に参加を始めた以上何があるか解らないとでもクロヴィスに打診した可能性は高い。
なにせルルーシュは周りを信用していない。
今もクロヴィスと話をしているのは自分の執務室で、紅茶も自分で淹れている。クロヴィスの護衛さえ信用していないことも知っているからコーネリアが自信を持って推薦する者たちから選べといっているのだ。
だが、コーネリアも信用していないルルーシュがその中から選ぶことはない。
クロヴィスが信頼しているジェレミアも拒否しているのだから当然だ。

「ユフィの専任騎士に関しては、姉上とダールトンがどうにかするだろう。問題は君だよ、ルルーシュ」
「俺に騎士は必要ありません」
「それならば、せめて親衛隊を・・・」
「同じ事です。兄上の親衛隊が何をしたのか忘れてませんか?」

表面上はクロヴィスの物だが、今はルルーシュの支配下にある親衛隊。
彼らはルルーシュをテロリストに仕立て上げ、殺そうとした。
クロヴィスの了承なく、イレブンではなくブリタニア人を生贄にしようとしたのだ。

「そうだ、今はルルーシュの支配下なのだから、あの者たちを使えばいい」

ギアスで絶対裏切れないのならば安全じゃないか。と、クロヴィスは言うが、ルルーシュは首を横に振った。
クロヴィスは、ルルーシュと魔女からギアスの事、コードの事を聞いていて、自分が信頼しているバトレーにだけは話していた。ギアスとは恐ろしい力だ。その力があれば、この政庁など1日で支配下におけるし、何より暗殺におびえなくて済む。だが、ルルーシュはその力で安全を手に入れようとはしなかった。最初は恐ろしいと感じたギアスだが、所有者がルルーシュならば問題ないと今は考えていた。
拳銃だって扱う者によって最悪の凶器にもなれば護身用にもなる。
力とは、使う者によるのだ。

「冗談じゃありませんよ。俺が見ていない時 に、何をするか解らないような連中を傍に置くつもりはありません」

ルルーシュの命令には従うが、イレブンを迫害するな、平等に扱えと何度言っても陰でイレブンに手荒な仕打ちをしている事を知っている。絶対遵守の命令と言えど、完全ではないのだと知った。

「ではルルーシュ、スザクではどうかね」
「・・・は?」

クロヴィスの口から出た名前に、ルルーシュは少しの間思考を鈍らせた。スザク?スザクとはあのスザクか?あのスザクを騎士に?

「だから、枢木スザクを専任騎士にする気はないかね?」

ポカンとした表情で固まった弟に、クロヴィスは苦笑しながら言った。

「・・・スザクは、イレブンです。名誉は騎士になれません。いえ、それ以前にブリタニア人以外が騎士となった前例はありません」
「前例がないだけで、禁止されてはいないね?」
「・・・スザクはシュナイゼル兄上の部下です」
「もしルルーシュが承諾するならば、兄上との交渉は私がしよう」

どうだろうか?
クロヴィスの真剣な表情から、思いつきではない事が知れた。
先日のテロ討伐の話ではなく、この話をするために来たのだ。
スザクを、ルルーシュの専任騎士に。
既に政庁内ではルルーシュの傍にスザクがいるのはよく見られる光景だった。人当たりのいいスザクはブリタニア人にも概ね好評で、最初はあった偏見も侮蔑の籠った視線も今は驚くほど薄れている。
何より、ルルーシュが唯一と言っていいほど信頼を置いている相手。
身体能力も高く、第7世代KMF唯一のパイロット。
学歴に少々難はあるが、専任騎士として、彼ほどの適任者はいない。
問題は、その血筋と所属だけ。

「・・・お断りします」

暫く考え込んでいたルルーシュは、ポツリと否定の言葉を告げた。

「どうしてだい、ルルーシュ」
「スザクは、俺の友達です。大切な、友達なんです。あいつと、主従関係になるつもりはありません。・・・あいつとは、対等でありたいんです」

否定の言葉に、クロヴィスは困ったように笑った。

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